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INTERVIEW とこなび INTERVIEW MAGAZINE

所沢で、「公式」を貫く。

整備士から痛車の店長へ。海賊版が蔓延する業界で公式ライセンスを貫いた17年。― じおくりえいと(J.I.O CREATE)店長 岡野 裕二さんインタビュー

じおくりえいと店長の岡野裕二さん。所沢市松郷の施工スペースを背にインタビューに応える
9割が海賊版でも、公式を貫く。 完成は終わりじゃなく、始まり。

Yuji Okano

岡野 裕二おかの ゆうじ

じおくりえいと(J.I.O CREATE)
株式会社オンリーワン ラッピング事業部 店長/2009年就任

整備士専門学校を卒業後、日産系の板金工場や町板金を経て、株式会社オンリーワンに整備士として入社。2009年、同社の10周年記念事業として立ち上がったラッピング事業部「じおくりえいと」の店長に就任。独学でライセンスビジネスを学び、日本でも数少ない「版権元公認」の痛車制作ショップとして業界を牽引している。

INTRODUCTION

所沢の街を走っていて、思わず目を引く鮮やかなラッピングカーを見かけたことはありませんか。キャラクターを全面に押し出した「痛車(いたしゃ)」。かつては少し特殊な趣味と思われていたこの世界で、あえて「公式ライセンス」という険しい道を切り拓いた人がいます。所沢市松郷にある「じおくりえいと」の店長、岡野さんです。整備士出身の彼がなぜ、アニメ業界の扉を叩くことになったのか。その17年に及ぶ歩みを伺いました。

CHAPTER 01

整備士から「痛車」の店長へ。17年前の唐突な転身

店長の岡野裕二さんは、現在46〜47歳。もともとは日産の板金工場で職人として働いていた、筋金入りの「クルマ屋」さんです。その後、町板金を経て、今の会社である「株式会社オンリーワン」に整備士として入社しました。

そんな岡野さんに転機が訪れたのは、2009年のこと。会社が10周年を迎えるタイミングで、社長から「店舗を増やすから、新しい事業をやってみないか」と声をかけられたのがきっかけでした。

「ただ単に、普通に車をやっていても面白くないだろうっていうのが社長の中にあって。ちょうどその頃、いわゆる『痛車』っていうのが、世の中的にマイナスイメージからプラスに転換し始めたタイミングだったんですよ」

当時のことを、岡野さんは少し照れくさそうに振り返ります。それまでは整備士や営業として、働いてきました。管理職になりたいという欲求も、特になかったと言います。

「正直……自分にできるのかなっていうのが一番でしたね。根本的に、僕は人の上に立って動かすようなタイプじゃないんです。でも、せっかく社長から振られた話だし。無下に断るのもあれだし、やってみたい気持ちもゼロじゃなかった。だから、やるだけやってみるかっていう感じでした」

根本的に、僕は人の上に立って動かすようなタイプじゃないんです。

CHAPTER 02

仕事ゼロからのスタート。コミケへの「特攻」とライセンスへの目覚め

意気揚々とスタートした「じおくりえいと」でしたが、現実は甘くありませんでした。2009年5月にオープンしてから、なんと最初の3ヶ月間は仕事が一件も入らなかったのです。

「いきなり店ができたところで、周りは『ここ、何やってるの?』ってなるわけですよ。当時、看板は真っ赤だし、アニメのキャラクターが載ってるし。近所の人も最初は、何屋さんか分からなくて怪しんでたみたいです(笑)」

ただ待っていても仕方ない。岡野さんは、自ら動くことに決めました。まずは地域で活動している車のオフ会やコミュニティに飛び込み、地道に顔を売ることから始めました。

「幸い、皆さんはすごく友好的に受け入れてくれました。そこで痛車事情を教えてもらったり、イベントの情報を得たり。そうするうちに、店に遊びに来てくれる人が増えて、ようやく仕事が回り始めたんです」

しかし、事業が軌道に乗り始めた1年目、岡野さんはある「壁」にぶつかります。それが著作権の問題でした。当時、街で見かける痛車のほとんどは、個人が勝手にイラストを印刷して貼っている「海賊版」の状態でした。けれど、長く商売を続けていくなら、このままではいけない。

「ある方から『この業界をやるなら、ちゃんと著作権をクリアしないと長続きしないよ』と言われたんです。それがきっかけで、ホワイトな事業としてやっていこうと社長と決めました。でも……そこからが本当の試練でしたね」

アニメ業界やゲーム業界との接点なんて、どこにもありません。公式サイトの問い合わせフォームからメールを送っても、返信など来るはずもありませんでした。そこで岡野さんが取った行動は、まさに「特攻」でした。

「その年の冬のコミケですよ。企業ブースに片っ端から飛び込みました。知り合いからチケットを譲ってもらって。でも、どこへ行っても『痛車屋? 何それ?』って言われるばかりでした」

じおくりえいとの施工スペース。ONLY ONEのロゴが入ったグレーの壁と、赤い工具のワゴンが並ぶガレージ
「Since 2003」を掲げる施工スペース。ここで一台ずつ痛車が生まれる。

CHAPTER 03

「アニメが嫌いになった」趣味を仕事にするということのリアル

地道な交渉が実を結び、2年目からは公式ライセンスを扱えるようになりました。しかし、それは同時に、膨大な事務作業と監修作業の始まりでもありました。

「2年目は、本当にアニメが嫌いになりましたね(笑)。その年は、ほとんどアニメを見ていないんじゃないかな。外で楽しむものは、外で楽しむべきだったなって、心の底から思いました」

趣味を仕事にする。それは一見キラキラして見えますが、内側は泥臭い調整の連続です。イラスト一枚を使用するにしても、ポージングの打ち合わせから、ラフの確認、監修、修正。一つのデザインが完成するまでに、10ヶ月かかることもあると言います。

「ライセンスビジネスって言うのは簡単ですけど、向こうの畑のルールを全部覚えないといけないんです。例えば、イラストレーターさんが一枚の絵を描くのにどれだけの工数をかけているか。それを『商売道具』として借りる重みを、制作側が理解していないといけない」

かつては「車が好き」という純粋な気持ちでこの業界に入った岡野さん。けれど、仕事として向き合う中で、その感情はよりプロフェッショナルなものへと変わっていきました。

「趣味は楽しむべきもので終わらせておくべきだった。それは今でも思います。でも、やり始めちゃったし、社長への期待を裏切りたくなかった。負けた感じも嫌でしたから。結局、挫折しなかっただけなんです」

淡々と語る言葉の端々に、元職人らしい意地と、預かった店を守る責任感が滲んでいました。

CHAPTER 04

9割が海賊版と言われる業界で、あえて「公式」を貫く理由

現在、日本に痛車業者は数多く存在しますが、その多くは依然としてライセンスを無視した施工を行っているそうです。

「ぶっちゃけて言うと、うちを除く8割、9割の業者は無許可です。向こうから見れば、うちはライセンスを独占しているように見えるんでしょうね。でも、ここまでの信用を築くのに、どれだけの苦労があったかは考えない」

あえて「高い、厳しい」と言われる道を選び続けるのは、それがお客様を守ることにつながるからです。公式の許諾を得て制作された痛車は、アニメジャパンのような公式イベントでも堂々と展示することができます。

「うちに頼んでくれるお客さんは、最初の一言目が『著作権ってどうなっていますか?』という確認から入る。自分の好きな作品を、後ろめたい気持ちなしに全力で楽しみたい。そういう質のいいお客様に支えられています」

岡野さんは、痛車を単なる「車の改造」とは捉えていません。それは、作品への愛を形にする「公式グッズ」の延長線上にあります。だからこそ、施工にも一切の妥協がありません。通常、フルラッピングには3週間ほどの時間をかけます。施工担当者とデザイナー、そして店長の岡野さん。3人のチームで一台一台、実寸に合わせた緻密なデータ制作と貼り込みを行っています。

「車の形状は一台ずつ違います。凹凸に合わせてデザインをどう配置するか。1ミリのズレで、キャラクターの表情が変わってしまう。そこを見極めるのが、僕たちの仕事です」

じおくりえいとのラッピング施工ブースを別角度から見た様子。天井に「ONLY ONE Since 2003」のロゴが光る
1ミリのズレも許さない、緻密な貼り込みが行われる作業空間。

CHAPTER 05

完成は「終わり」ではなく「スタート」。長く楽しんでもらえる喜び

取材の最後に、仕事をしていて一番楽しい瞬間はいつですか、と尋ねてみました。すると、岡野さんからは意外な答えが返ってきました。

「正直、この17年の中で心から満足できたことは一度もないんです。まだまだ途上。理想とはかけ離れていますから」

満足という言葉を使わないところに、岡野さんのプロ意識の高さが伺えます。けれど、お客様への向き合い方について語るとき、その声は少しだけ柔らかくなりました。

「よくお客様に言うんですけど、ラッピングが完成して終了じゃないんです。お客様にとっては、そこから楽しむのがスタート。高額な金額をかけて作っていただいたものですから、いかに長い時間、その車両で楽しんでもらえるか。それが全てだと思っています」

その満足度が、結果として「次もまたじおくりえいとで」というリピートにつながる。故障を直して終わりの整備士時代とは違う、新しいやりがいがそこにはありました。

「所沢に恩返ししたいとか、そういう大きな話じゃなくて。ただ、任されたからには裏切れないし、納得のいくものを作りたい。ただそれだけなんです」

職人気質の店長が守る、この場所。自分の愛車を預けるなら、こういう「嘘のない人」がいい。

任されたからには裏切れないし、納得のいくものを作りたい。

CAREER STORY

これまでの歩み


  1. 〜2009年 整備士・板金職人時代

    整備士専門学校を卒業後、日産系の板金工場や町板金で職人として腕を磨く。その後、株式会社オンリーワンに整備士として入社した。

  2. 2009年 じおくりえいと開業

    オンリーワン10周年記念事業として、ラッピング事業部「じおくりえいと」を立ち上げ店長に就任。5月の開業から3ヶ月は仕事ゼロが続いた。

  3. 1年目 コミケへ「特攻」

    オフ会やコミュニティに飛び込んで顔を売り、仕事が回り始める。著作権の壁に直面し、冬のコミケ企業ブースへ飛び込み営業を敢行した。

  4. 2年目〜 公式ライセンスへ

    地道な交渉が実り、公式ライセンスを扱えるように。膨大な監修作業と向き合い、「アニメが嫌いになった」と笑うほど業界のルールを学んだ。

  5. これから 17年、まだ途上

    9割が無許可と言われる業界で「公式」を貫き業界を牽引。完成を「スタート」と捉え、長く楽しんでもらえる痛車を一台ずつ作り続ける。

CAREER DATA

数字で見る「じおくりえいと」


17年 じおくりえいとの歩み(2009年〜)
3ヶ月 開業から初仕事までの空白
9割 業界の無許可率(うちは公認)

MESSAGE

ラッピングが完成して、終了じゃないんです。
お客様にとっては、そこから楽しむのがスタート。
いかに長く楽しんでもらえるか。それが全てです。

じおくりえいと 岡野 裕二

編集後記

取材中、岡野さんが「アニメが嫌いになった」と笑いながらおっしゃったのが印象的でした。それは、誰よりも真剣に作品と向き合ってきた証拠なのだと思います。所沢に、こんなにもストイックで「本物」を追求する場所がある。そのことが、同じ街に住む一人としてとても誇らしく感じられました。

PROFILE

プロフィール


コンクリート壁を背に、正面を見据えるじおくりえいと店長の岡野裕二さん

岡野 裕二

おかの ゆうじ
店名・屋号 J.I.O CREATE(じおくりえいと)
会社 株式会社オンリーワン ラッピング事業部
肩書 店長(2009年就任)
経歴 整備士専門学校卒業後、日産系の板金工場・町板金を経てオンリーワンへ。整備士から痛車制作の道へ。
事業内容 公式ライセンス(版権元公認)による痛車・カーラッピングの企画・デザイン・施工。
店舗情報 埼玉県所沢市松郷218-4/関越道「所沢IC」より車で約20分・西武新宿線「新所沢駅」より車で約17分/営業 9:30〜18:30/定休日なし/TEL 04-2935-3590/Instagram @jiocreate02/X @JIO_CREATE/公式サイト jio-c.net
本人からの一言

任されたからには裏切れない。納得のいくものを、嘘なく作りたい。完成はゴールではなくスタート。長く楽しんでもらえる痛車を、これからも一台ずつ。

FAQ

よくある質問

Q.痛車の制作を依頼したいのですが、著作権の手続きは自分でやる必要がありますか?

A.いいえ、じおくりえいとで版権元(アニメ制作会社や出版社など)との交渉や契約を代行します。すでに公式ライセンスを取得している作品も多いですが、新規の作品でも可能な限り交渉を行いますので、まずはご相談ください。

Q.遠方に住んでいるのですが、所沢の店舗まで車を持ち込む必要がありますか?

A.基本的にはご来店をお願いしていますが、北海道から九州まで全国からお問い合わせをいただきます。遠方の場合は、指定したアングルで車両の写真を撮っていただき、それをもとにデザインを制作することも可能です。施工の際のみ、お車をお預かりする形になります。

Q.ボンネットだけ、あるいはサイド一面だけの部分的なラッピングも可能ですか?

A.はい、可能です。フルラッピングだけでなく、ワンポイントや部分的な施工も承っています。ご予算や「このキャラクターをここに貼りたい」というご要望に合わせて、最適なレイアウトをご提案します。

NEXT STORY

その愛車に、公式の誇りを。

じおくりえいと(J.I.O CREATE)は、所沢市松郷の公式ライセンス痛車制作ショップ。
全国からの相談に対応。ワンポイントからフルラッピングまで。

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